なりすましメールは昔からある詐欺手法であり、自身や自社の社員が引っかかることはないと考える方は多いです。しかし、Visaが発表した調査によれば、半数近くが「自分は詐欺に引っかからない自信がある」と回答している一方、73%が要注意ポイントを見逃していたとのこと。
生成AIをはじめとする技術の発展により、なりすましメールの精度は高まっており、まさに企業の大きな脅威となっているのです。この現状を踏まえると、あらためてなりすましメールへの理解を深めなければいけません。
本記事では、なりすましメールの特徴や仕組み、見極めるポイント、事前対策などを解説します。
なりすましメールとは
なりすましメールとは、信頼できる個人や企業を装って送られる詐欺メールのことです。かつては見た目や内容が明らかに不自然だったため、容易に見分けることが可能でした。
しかし、生成AIやテクノロジーの発展により、現在のなりすましメールは見た目や内容が正規のものと酷似しており、受信者が見分けるのは困難です。
なりすましメールは、単なる迷惑メールとして扱うべきではありません。1通のなりすましメールが不正アクセスやランサムウェア攻撃、機密情報の流出につながる可能性があるため、適切に対応することが重要です。
増加する背景
情報技術の急速な進化と普及が、なりすましメールの増加を後押ししていることは明らかですが、それだけではありません。社会的、技術的、さらには経済的な要因も、この現象を加速しています。
まず技術的な観点から見ると、インターネットの普及により、個人のメールアドレスやその他の個人情報が、より広範囲にわたって流通するようになり、攻撃者たちは個人情報を悪用する新たなチャンスを得たのです。加えて、メール配信技術の発展は、大量のなりすましメールを短時間で送信することを可能にし、攻撃の効率を大きく向上させています。
社会的な要因としては、電子メールが日常生活で基本的なコミュニケーションツールとして確立されたことが挙げられます。人々がメールの内容をあまり疑わずに開いてしまうことが多いため、攻撃者は巧妙に偽装したメールで簡単に信頼を得ることができます。
経済的な要因もまた、なりすましメールの増加を助長しています。攻撃者は個人情報を盗み出し、それを悪用することで、大きな利益を得ているのです。たとえば、クレジットカード情報や銀行口座情報、企業の機密情報はダークウェブで高価で取引されます。
なりすましメールの仕組み
なりすましメールの仕組みを理解することで、適切に対処できるようになります。ここでは、その作成から送信、受信者の反応に至るまでのステップを詳しく説明します。
メールの作成
なりすましメールでは、信頼できる送信元を巧みに偽装することから始まります。有名企業や銀行、個人のメールアドレスを模倣し、わずかな違いしか見分けられないほど、メールアドレスは正規のものに酷似しているのです。
また、メールの内容も実際のものと見分けがつかないように作成されます。企業のロゴや署名、文体など、細部にわたって正規のメールと同じ内容となります。そうすることで、受信者の警戒心を効果的に解けるのです。
メールの送信
なりすましメールの文面が完成したら、攻撃者は自動化ツールを使い、一度に数千から数万通のメールを送信するのです。また、不正に入手したメーリングリストを利用して、特定の企業や業界などターゲットを絞った攻撃も行われます。
受信者の反応
受信者がメールに含まれるリンクや添付ファイルをクリックすれば、マルウェアのインストールや機密情報の盗難につながります。受信者が無意識のうちに攻撃者の意図通りの行動をとることで、なりすましメールは成功するのです。
なりすましメールとフィッシング詐欺の違い
フィッシング詐欺は、なりすましメールと類似点が多いものの、主な違いはその目的にあります。
フィッシング詐欺は、受信者から直接的に個人情報やログイン情報を騙し取ることを目的としています。そのため、オンラインバンキングのパスワード、クレジットカード番号、社会保障番号、企業ツールのログイン情報など、具体的な情報の入力を求めるのです。
フィッシング攻撃では、企業を装ったメールが送られ、リンク先の偽のウェブサイトで情報入力するように誘導されます。偽サイトもまた、見た目が本物と酷似しており、ユーザーが情報を入力することで直接的にデータが盗まれる仕組みです。
なりすましメールを見極めるポイント
なりすましメールに対処するためには、特定の警告サインを理解し識別しなければいけません。以下では、なりすましメールの典型的な特徴と、それを見分けるための主なポイントを解説します。
差出人のメールアドレスを確認する
なりすましメールの最も一般的な特徴の一つは、差出人のメールアドレスです。正規のメールアドレスと非常に似ていますが、しばしば微妙な違いが存在します。
たとえば、通常使われているドメイン名の一部に余分な文字が加えられている、または全く異なるドメインを使用していることがあります。
メールを受け取った際には、差出人のアドレスをよく確認し、疑わしい場合は直接その人物または企業に連絡を取ることが重要です。
リンクや添付ファイルに注意する
なりすましメールには、悪意のあるリンクや添付ファイルが含まれています。これらのリンクをクリックすると、マルウェアがインストールされたり、フィッシングサイトに誘導されたりするのです。
メール内のリンクは、マウスカーソルをリンク上に置いてURLをプレビューすることで、その宛先を確認することができます。安全でないと思われるリンクや、不審なファイルは開かないようにしてください。
言語や文体の異常をチェックする
なりすましメールは、文法的な誤りや不自然な表現を含むことがあります。企業が送信するメールは校正が行われているため、大きな誤りは少ないです。そのため、不自然な文体や誤字脱字が目立つ場合は、なりすましメールの可能性があります。
緊急性を訴える内容には注意
なりすましメールは、緊急を要するような文言を使って、受信者にすぐに行動を促すことが多々あります。
たとえば、「ただちにパスワードを更新しないとアカウントが停止されます」といった具合です。急ぎの行動を促すメールには特に注意し、必要ならば関連する企業や相手に直接問い合わせましょう。
情報の要求
本物の企業や取引先などは、メールを通じて機密情報や個人情報を求めることはほとんどありません。しかし、なりすましメールは個人情報や財務情報、ログイン情報などを求めることがあります。機密情報や個人情報をメールで求められた場合は、なりすましメールかどうかを疑いましょう。
なりすましメール対策ポイント
ここでは、企業が行うべきなりすましメールの対策ポイントをご紹介します。
徹底した従業員教育
高度なセキュリティソフトを導入しても、従業員一人ひとりの意識が伴わなければ、なりすましメールなどのサイバー攻撃を完全に防げません。そこで重要になるのが、サイバーセキュリティに関する徹底した従業員教育です。
教育の主な内容としては、以下のようなものが考えられます。
- なりすましメールの手口と識別ポイントの共有
- 不審メールを受け取った際の適切な対処方法
- ウイルス感染などの事案発生時の報告ルート
- パスワード管理の重要性と要領
- 最新のサイバー犯罪動向の共有」
定期的な教育とテストを実施し、従業員一人ひとりの意識を常に高い状態に保つことが不可欠です。サイバー攻撃の手口は日々進化を遂げており、安全性に対する認識を新たにする必要があります。
技術的な対策に加え、セキュリティ意識の高い人材を育成することが、サイバー攻撃のリスクを最小化する上で極めて重要となります。
多要素認証の導入
多要素認証とは、システムへのアクセス時に複数の要素を確認するセキュリティ手段のことです。ユーザー名・パスワードに加え、別の要素、例えば携帯電話に送られるワンタイムパスワードや、生体認証などが必要になります。
これにより、たとえ不正にユーザー情報が入手されてしまった場合でも、攻撃者がシステムにアクセスすることは極めて困難になります。なりすましメールなどで情報が流出しても、被害を最小限に抑えられるのが大きなメリットです。
セキュリティソフトの導入
企業を狙うサイバー攻撃は多様化しており、なりすましメールに加え、ウイルス、マルウェア、フィッシング詐欺など、様々な脅威が存在します。こうした脅威から社内システムと従業員を守るには、専門のセキュリティソフトの導入が不可欠になってきています。
効果的なセキュリティソフトには、以下のような機能が備わっています。
- 高度なスパムフィルタリング機能で不審メールをブロック
- 常に最新のシグネチャでウイルス/マルウェアを検知
- メール本文やURLなどをリアルタイムで解析し、フィッシング詐欺を特定
- 機械学習などの技術で未知の脅威にも対応
このようなセキュリティソフトを導入することで、なりすましメールをはじめ、さまざまな攻撃から社内システムと従業員を防御できます。高度に進化するサイバー犯罪に対し、自動化された継続的な監視と対策が可能になるのです。
近年のサイバー攻撃は極めて巧妙であり、人的対応だけでは限界があります。セキュリティソフトの導入は必須の対策と言えるでしょう。
DMARCポリシーの実装
DMARCとは「ドメインベースのメッセージ認証、報告、適合」の略で、メール送信ドメインの認証を行うプロトコルです。DMARCポリシーを設定することで、以下の機能が実現できます。
- 認証機能でメールの送信元を検証し、なりすまし行為を検知
- 認証結果に応じて、メールの受信/拒否を自動で判断
- 外部サービスへの報告機能で、侵害の監視・分析が可能
- 細かなポリシー設定で、より確実な防御を実現
DMARCポリシーを適切に運用すれば、企業のドメインを不正に使われるリスクを大幅に低減できます。なりすましメールによる被害拡大を食い止められるだけでなく、早期の侵害検知にも役立ちます。
なりすましメールでよくあるQ&A
最後になりすましメールに関するよくあるQ&Aをご紹介します。
Q:なりすましメールの見極め方は?
A:なりすましメールを見極める主な方法は、メールの送信元を確認することです。正確なドメイン名、文体の一貫性、文章の正確性などを検証します。
また、リンクや添付ファイルが含まれている場合、それらの安全性を疑い、直接クリックしないようにしてください。メール内の緊急性を訴える言葉や個人情報の要求も危険信号です。
Q:なりすましメールの目的は何ですか?
A:なりすましメールの主な目的は、個人情報や機密情報の窃取、金銭的な詐欺、またはマルウェアの拡散です。これにより、攻撃者は利益を得たり、さらなる攻撃のためのアクセスポイントを確保したりします。
Q:フィッシングメールとの違いは?
A:フィッシングメールは主に個人情報やログイン認証情報を直接的に盗むことを目的としていますが、なりすましメールは、より広範な手法を用いて信頼関係を悪用し、様々な形の詐欺や攻撃に利用されます。両者は手法が似ているため、しばしば混同されますが、目的とする攻撃の形態には違いがあります。
Q:なりすましメールは危険ですか?
A:はい、なりすましメールは危険です。なりすましメールは、個人や企業に対して重大なセキュリティリスクをもたらし、情報漏えい、金銭的損失、さらには企業の信頼性低下につながる可能性があります。
Q:なりすましメールが届いたときの対処法は?
A:なりすましメールを受信した場合、メールを開かずに削除し、関連するセキュリティチームやIT部門に報告してください。また、メールが偽の情報に基づいている可能性がある場合は、正規の連絡先を通じて情報の確認を行いましょう。
Q:メールアドレスのなりすまし対策は?
A:メールアドレスのなりすましを防ぐためには、DMARC(メール認証プロトコル)の実装が有効です。これにより、偽メールの発信を抑制し、受信者が正しいメールだけを受け取るようにすることができます。
まとめ
なりすましメールは、ただの迷惑メールを超えた巧妙なサイバー攻撃の一種であり、企業に深刻なリスクをもたらします。なりすましメールに対応するためには、継続的な従業員教育、適切な技術的対策の導入、そして常に警戒を怠らないことが重要です。
しかしながら、サイバー犯罪は日々進化を遂げており、完璧な対策などありません。そこで現代の企業に求められるのは、被害の回避だけでなく、被害を最小限に食い止める対応力です。
その有力な手段の一つが、ダークウェブの監視です。攻撃者はダークウェブ上で、盗んだ企業の機密情報を露出・売買しているのが実態です。定期的にダークウェブをモニタリングすれば、自社情報の流出状況を把握し、迅速な初期対応を取ることが可能になります。
すでに貴社の情報がダークウェブに流出している可能性も決して低くはありません。まずは一度、弊社が提供する無料のダークウェブ調査サービスにお申し込みいただき、状況を確認されることをお勧めいたします。被害に気付く前に対策を立てられるよう、サポートさせていただきます。
弊社はダークウェブ調査(無料)を実施しています。
こちらからお申し込みください。